エンジニアのように室内に長時間こもって仕事をする職業の方は、精神疾患にかかりやすいことで有名です。一般的に、鬱病は働き疲れた30代以降の方に発症しやすい傾向にありますが、最近では20代にして鬱になる方も少なくありません。若年鬱患者のデータを調べてみると、彼らの多くには運動習慣がなかったことが判明しました。毎日椅子に座って黙々とデスクワークをこなす単調な生活を繰り返していたのです。裏を返せば、鬱病予防には運動習慣が重要ということです。それでは、何故体を動かすことが脳の健康維持に重宝するのでしょうか?その原理を詳しく見ていきましょう。
スウェーデンの研究グループはマウスを用いた実験により、筋肉内に存在する成分の驚くべき働きを発見しました。ストレスを感じた生物の体内では「キヌレニン」というアミノ酸が生成されますが、このキヌレニンが多すぎるとうつ病に代表される精神病の原因になってしまいます。生物が運動すると、骨格筋の内部で「PGC-1a1」というタンパク質と「KAT(キヌレニンアミノトランスフェラーゼ)」という酵素が増加します。そしてKATにはキヌレニンをキヌレニン酸に変化させる作用があり、有害物質が血液に乗って脳に運ばれるのを阻止してくれます。実際、通常のマウスとPGC-1a1を多く持つマウスの2種類にストレスを与えてみたところ、前者のマウスには鬱病の症状が現れたのに対して、後者のマウスには何の影響もありませんでした。この結果から、運動習慣を継続すれば、筋肉内の成分による解毒作用によってストレスを軽減できることが判明したのです。運動すると気分がすっきりする現象にはちゃんとした科学的根拠があることが証明されました。
それでは具体的に私たちはどのくらいの頻度で運動を続ければよいのでしょうか?ロンドン大学の研究チームは、約1万人のイギリス人を対象に「運動頻度と鬱病発症リスクの関係」について実験を行いました。その結果から、週に1回運動し続けたグループは鬱病発症リスクを6%、週に3回運動し続けたグループはうつ病発症リスクを19%も低下させられることが判明しました。それ以上運動回数を増やしてもうつ病発症リスクが大きく低下することはありませんでした。
つまり、うつ病予防には週3回程度の運動習慣を意識することが大切ということです。多忙な現代人が毎日運動するのはなかなか難しいですが、3回程度なら空き時間を利用すれば十分に実現可能です。休憩時間をうまく活用して、運動習慣を継続しましょう。意気込み過ぎるとかえってストレスになってしまう恐れがあるので、楽しみながら運動することが大切です。